『バスケットボール戦術学1』刊行記念座談会

守備力とサイズが揃えば

“和製サトランスキー”も生まれる!

小谷 本書のもう一つのテーマである1対1の重要性とか意味についてはどうですか?

 

森 1対1のオフェンスというのはバスケットボールのオフェンスの一番大事なところだと思います。オフボールスクリーンだろうと、オンボールスクリーンだろうと、スイッチされたとき、ギャップを消されて、消されてということになると、最終的にボールを持っている人対目の前にいる人の処理がどれだけ効率よくできるかというところに落ち着くんですよね。それはペリメーター(外回りの選手)からかもしれないですし、インサイドからかもしれないですし。でもどちらにしてもボールを持っている人がスコアできなければいけない。ガード対動きの遅いビッグマンの1対1でもスコアできないとか、ビックマンなのに相手のシューティングガードにつかれて得点ができないとなると、どの戦術も意味をなさなくなってしまう。そこでスコアできる、というのが、どのアクションでも前提になる。それが欠けていると、どれも効かないくらい重要なことだと思いますね。

 

小谷 ヨーロッパではいかがですか?

 

前田 1対1で重要なのはスコアできるということだと思います。シュートが入るということがあった上でそれを戦術にはめ込める。この選手は得点をとる力があるからディフェンスでディナイしなくちゃならないとか、スイッチしないとどうしようもないとか。そういった意味で個の力というのは大事だと思います。それがないと、戦術の中にはめ込めないと思っています。

 

小谷 どれだけワイドオープンになろうとも、そこも1対1の状況だと思っていて、かなり遠いところにいるディフェンスとボールを持っている人の1対1という捉え方をしたほうがいい。だから最終的に1対1で得点する能力がどれくらいあるかというのが大切になると思うんですよね。

 

前田 アンダーカテゴリーくらいのクリニックをやるときには1対1になると、ボールを持っているところだけにイメージがあるけど、ボールを持っていないオフボールのところでも1対1はあるんだよということはたまにいいますね。そこでも勝たないと、押し出されて貰えなくなるとか。上手な選手はスクリーンがなくてもボーッと立っていて、肝心なところを押さえて貰いたいところでボールを貰ったりする。それもある意味でボールのないところでの1対1だと思うんで、大事だと思うんですよ。

 

小谷 1対1の育成年代への指導という点ではどうですか。

 

片岡 これも個人的な考えですが、選手の持つ想像力をより有効的に活用する為にも、競技の捉え方の部分をサポートできるようなコミュニケーションに留意しました。

例えば、1対1という言葉にも様々な拡がりがあります。自分と同じ背格好の選手との1対1、自分より身長は高いけどスピードは劣る選手との1対1、その逆のケースもあります。また、ショットクロックがどれくらいあるシュチュエーションなのかにも1対1は影響されます。そういう細かな具体的な状況を提示して想像力を広げてあげると、選手達にも良い刺激になるのかなというのは常に思っていました。

またBリーグは「世界に通用する選手やチームの輩出」をミッションの1つとしていて、U-15チャンピオンシップのBリーグのティップオフイベントとして、佐藤晃一さんと安藤周人選手のワールドカップの振り返りの対談も行われました。15歳以降の競技人生や、世界を意識させるための本当に色々な取り組みがあります。サイズのある選手にも3ポイントシュートや、ボールハンドリングを早い段階から訓練する事も重要ですが、上のカテゴリーで活躍するにはディフェンスにおけるプレーの幅を拡げる事が本当に重要だと思います。サイズがあって、3ポイントシュートが打てて、ハンドリングが良くても、アウトサイドのディフェンスが極端に弱かったり、クローズアウトのシチュエーションで守れなければ、選手としての価値は半減してしまいますからね。飛び級をして年齢よりも上のカテゴリーで試合に出場することも難しいでしょう。名古屋ダイヤモンドドルフィンズのU-15チームでは、末広朋也HCがディフェンスの脚力、ポジショニング、コミュニケーションの部分も選手の特性に応じて非常に丁寧に指導されています。未来のある若い選手に接する分、選手のチャンスを拡げる為にも、ディフェンスの部分を疎かにしないことが本当に大切な事だと感じます。

 

小谷 そういう部分を踏まえて、選手を育成していくことが大切なんですかね。

 

片岡 これも個人的な意見ですが、サイズアップに取り組む時にもディフェンス力は本当に大切だと思います。サイズのある選手をポイントガードにコンバートする際に、ボール運びの能力や、コントロール能力で適性が測られる事も多いと思います。前提としてもちろん大切ですが、178㎝の篠山竜青選手のような前線からの非常に激しいディフェンスを190㎝の選手が出来れば、とてつもない武器になります。

 

前田 ナショナルチームのアンダーの方に携わっていて、U-16とかでも195、6cmの子にボール運びをさせています。自分のチームでは完全に5番なんだけど、今、U-16とかはもう大きい子がいっぱいいて、スタメンは皆、190cm以上、オールフォワードでやっているけど、何回かやっていると様になってくる。もちろんミスは起きるけど、そこでプレーをやめさせずにトライ&エラーを繰り返させてあげるというのが、すごく練習になっている。日本代表の佐古賢一コーチがワールドカップが終わって話されていたんですが、サトランスキーは日本人選手で作れると。カンパッソとかああいうスペシャルな選手は、もう天才だから、どんなに練習しても難しいんだけど、サトランスキーのゲームメイクとか、ドリブルプッシュとか、キックアウトというのは作れると断言していて、僕は非常に印象に残ってます。たしかにそうだなと。

 

小谷 最後にこれだけは伝えておきたいということがあったらお願いします。

 

森 片岡さんがおっしゃっていたことに付随してじゃないんですけど、特にジュニアの世代だと、とりあえずこの動きをやっておけみたいな指導をされることも多いと思うんですよね。それはなぜかというと、この本で書かれているような「表」と「裏」みたいなことが際限なく発生するから、そこまで指導で落とし込むことが難しい。どんなディフェンスが想定されるとか、その対応はこうだとか。だからそういう指導者の方にこそオススメしたいですね。先日、僕、デービット・ブラッドさん(ユーロリーグ優勝の経験を持つ、元クリーブランドキャバリアーズHC)の講習会を受けて、特にこの話しとつながるのは「プレーを教えるんじゃなくて、プレーの仕方を教えろ(Don’t teach them plays. Teach them how to play)」っていうことをおっしゃっていて、まさにそれはこの本で書かれているようなことだと思うんです。クロススクリーンは知っているとか、スクリーン・ザ・スクリーナーを知っているとかいうのは大前提として、それをどう使うのか、ディフェンスにこう対応されたら、どういう解決手段があるのかというのを教えろと。まさにそれはこの本が主眼としているところだと思うので、是非、活用していただけたら非常に嬉しいです。

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