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鈴木良和  (株式会社ERUTLUC)

 『競争心とペイント決定力』 

「ペイントエリアでの決定力」が日本の課題であると言われ始めて数年が経ちました。

 私自身もこの数年、ペイントエリア内での決定力を磨くことをテーマに練習を考案して、様々な取り組みを工夫し、スキルについての学びも深めてきました。

 そうした努力を突き詰めていく中で、実感したことがあります。それは、スキルが身につくというのは「何を知っているか」、「何を教わったか」ではないということです。スキルを身につけ、決定力を高めるためには「どう取り組んでいるか」が重要でなのです。もっと踏み込んで言えば、素晴らしい動画を見せ、スキルを使う場面を適切に捉えて、素晴らしいドリルを設定したとしても、選手自身にシュートを決めるということに対しての「渇望」のようなものがなければ、それは空虚な練習と化してしまうというのです。

 ペイントエリアでの決定力を磨く上で問題になるのは、選手一人ひとりの「決めたい!」、「勝ちたい!」という競争心なのではないか。選手が競争心を持っていること、競争心を育むことができていること、それこそが最も重要な土台なのではないかと感じています。

 実際に、多くの指導者の方から「負けず嫌いな選手はどう育てればいいか?」、「選手がシュートを外しても、たいして悔しそうにもしない。これでいいのだろうか?」という質問や相談を受けることがあります。指導者として、選手一人ひとりに成長してほしいと願うのは当然のことです。そして、成長のためには「競争心」が必要で、その「競争心」はどのようにして身につくのか、育まれるのか。そこに課題を感じることも当然のように思うのです。

 今回のバスケットボール・プラネットのテーマを考える上で、技術的なテーマとして挙がったのが「ペイントエリア内でのフィニッシュスキル」でした。「シュート力」、「リバウンド力」と合わせた近年の日本バスケ界にとっての3大テーマの一つです。そして、この課題は、育成年代でのゾーンディフェンスの蔓延が大きな足枷となっていると問題視されていました。

 ペイントエリア内を手厚く守るゾーンディフェンスに対して、外打ちの単発なオフェンスで終わる。もしくはフルコートのゾーンプレスで相手からボールを奪ってそのままDFのいないペイントエリア内フィニッシュを量産する。能力が高い選手たちほどそういった経験を積み重ねるという育成年代の環境が、ペイントエリア内での決定力を低下させる原因として問題視されていたわけです。

 それから、育成年代でのマンツーマンディフェンス推奨施策が進み、育成年代から個の攻防を磨きやすい場面が増えました。実際に調査をしたわけではありませんが、ペイントエリアでの競り合い数をゾーンディフェンスが許されていた時代とマンツーマン施策後で比べたら、かなりの数で違いが出てくると思います。それはすなわち、子どもたちのペイントエリア内フィニッシュの経験値の数になるわけです。

 ここに関しては、機会と経験値の増加が確実に起きていると思います。ペイントエリア内でのフィニッシュの「量」の面で我々は向上してきたわけです。では、次なる課題は何か。「質」の向上です。機会の質、経験の質の向上を目指していく必要があります。

 海外と日本の育成年代の選手を比較した際によく言われるのが、「海外の選手は勝ち気で負けず嫌い」、「日本の選手は真面目で言われたことをちゃんとやる」ということです。もちろん、すべての子どもに当てはまることではありませんが、大枠でこの表現は当たっているのではないかと私も感じています。実際に、私はヨーロッパの選手と日本の選手を同時に指導したことがあるのですが、同じ指示を出しても、海外の選手たちのほうがより実戦的に取り組んで、勝ち負けやシュートを決めきることにこだわる選手が多く、日本の選手のほうが僕が説明したことをきちんとやりきろうとする傾向がありました。ヨーロッパのコーチがゲーム形式の練習を担当したとき、得点板は使っていませんでしたが、練習の途中で選手たちに「今は何点−何点なんだい?」と質問すると、ヨーロッパの選手たちはすぐに「◯点−△点」と答えた一方、日本人のチームは自分たちが何点か答えられませんでした。彼らはゲーム形式の「ドリル」を行っていただけで、競争をしていなかったのです。

 

「競争心が育まれなければ、本物の決定力は身につかないのではないか?」

 

 これが、今回のバスケットボール・プラネットのテーマの背景にある仮説です。そして、そこから派生して生まれたのが、「この競争心というものは、どのようにして育まれるのだろうか?」という疑問です。

 この疑問に対して、日本国内の素晴らしい選手、指導者、研究者の方々に3つの質問をしました。この3つの質問を考察のスタートラインにしながら、それぞれのフィールドでの経験や技術論、コーチングメソッド、哲学を紐解いていきます。3つの質問とは、以下の通りです。

 

1

「競争力」とはどういったもので、 

どのように磨かれていくのでしょうか?

 

2

選手たちが「シュートを決めたい」、

「相手を止めたい」というような、

競争にこだわる、 

競争を面白がれるように

なっていくために、 

どんなことができるでしょうか?

 

3

日本の選手は海外の選手に比べて、

ペイント内での決定力が

低いと言われています。

それはなぜで、

どのように改善していけば

いいのでしょうか?

 

 このバスケットボール・プラネットという本は、読者の方に「正解」を提示するのではなく、「問い」を提示することをテーマにしています。

 指導者としても、プレーヤーとしても、重要なことは「上質な問い」を立てることです。その「問い」の答えを探し続ける過程こそが、技術の成長過程だと考えるからです。さらには、その「問い」そのものの質を見直していくことで、上質な技術というものを考え続けていくことができるのです。この本のテーマは、正解を示すことではなく、「問い」を示すことです。読者の皆さんには、まずこの「問い」に対して自分が考察することを大事にしていただきたいのです。

 そして、様々なカテゴリーで実績のある選手、指導者の方々が、同じ「問い」に対してそれぞれの立場、経験、文脈で各々の考えを本の中で示してくださいます。それらの考え方や意見を皆さんの考察の材料として加えていくことで、考えがより整理され、理解が深まり、日常のコーチングがより良くなっていくと思うのです。

 それでは、「ペイントエリアでの決定力」、そして「競争心」を育むためにはどのようなことができるか、一緒に探求していきましょう!